ぼくらのストロベリーフィールズ
ある日、准くんから連絡があった。
『一吾のお母さんにのばらちゃんの連絡先教えていい?』と。
一吾くんが住んでいたあの部屋は、売られることになったらしい。
実は、いつでもあの部屋に帰れるように、私は鍵を返さないでおいたのだ。
間もなく、『のばらちゃん、もしかしてまだ合鍵持ってる?』と一吾くん母から電話があった。
片付けをしに今度あの部屋に行くから、その時に持ってきてくれるかな、とのこと。
すっきりとした秋晴れの日だった。
「俺も行こっか?」
「え。本当?」
尚紀くんが一緒に来てくれることになった。
1人だと感情を抑えられなくなりそうだったから、安心した。
マンションの前には、引っ越し会社のトラックが停まっていた。
業者さんがあの日まとめた段ボールやゴミ袋を運んでいた。
私は入り口前で足が止まってしまった。
尚紀くんは顔をのぞきこみ、「大丈夫?」と聞いてきた。
「うん。尚紀くんいるし、心強いよ」
そう伝えるといつもの微笑みを向けて、頭を撫でてくれた。