ぼくらのストロベリーフィールズ



「久しぶりだねー。ごめんね、こんなことになっちゃって」



「いえ。鍵持ったままですみませんでした」



「ううん。部屋ほったらかしにしてたのはこっちだし。やっと安定期入ったから片付けようと思って」



その言葉に、ぐっと拳を握りしめてしまう私。


尚紀くんにぽんと優しく肩を叩かれた。



久しぶりに会った一吾くんのお母さんは、


見た目の美しさはそのままに、お腹だけが少しぽっこりしていた。



「あの、一吾くんに会いましたか?」



「会ってきたよー。真面目にやってるみたいだし、ぶち込まれることはないと思うよ」



部屋のものはすべて搬出され、窓からの光がダイレクトに入って来る。


3人の影だけがつるつるした床に映し出されていた。



「でも、家にはいったん戻って来させるけど、一緒には暮らせないからね~。どっかに預けるか、どうしようかなーって感じ?」



「何で……何で……!? 母親でしょ?」



室内に物がなくなった分、自分の震えた声が左右の壁に直接ぶつかり、エコーがかかったように聞こえた。



「意味わかんない! 都合のいい時だけ利用してポイして! 一吾くんを何だと思ってんの!?」


「のばらちゃん……落ち着いて」



一歩踏み出したが、強い力で腕をつかまれ制される。


振り返ると、首を振りながらも眼光を鋭くさせた尚紀くんがいた。



彼もきっと頑張って冷静さを保っているんだろう。



「…………」



誰も言葉を発しなくなった。


遠くからのかすかなサイレン音だけが耳に入った。


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