ぼくらのストロベリーフィールズ
「うっ……何でっ、そんなこと言われなきゃいけないの?」
「は?」
逆光になり表情は見えなかったけど、一吾くんの母は泣いていた。
「ずっと育ててきてあげたのに……。せっかく手に入れた幸せを邪魔されるとこだったんだよ?」
「助けてって言ったのはそっちでしょ?」
「だってあの時はつい……っ。あの子、前にもあたしを助けようとしてくれたことがあって……それが、その……嬉しくてっ」
「……っ!」
感情を爆発させようとしても、どうしたらいいか分からなくて。
ぱくぱくと言葉が空気になって吐き出されるだけだった。
すると尚紀くんが私の代わりに口を開いてくれた。
「じゃあ、どっち選ぶんですか? 一吾と、お腹の子のお父さんと」
「…………」
一吾くんのお母さんは下を向いたまま黙ってしまう。
私は答えを聞くまで黙っておこうと決めた。
しかし――
「あ!」と、嬉しそうな声が彼女から発された。
「何ですか?」
「動いたの! 今!」
そう言って、彼女は嬉しそうな顔でお腹をさすった。
バカバカしくなった私は、「帰ろう」と尚紀くんに声をかけた。
尚紀くんも頷き、一緒に部屋から出ようとした時。
一吾くん母は気持ちを落ち着かせたのか、ようやくゆっくりと話し出した。
あの人――お腹の子のお父さんは、一吾くんを恐れている。
一吾は、あの人のことを嫌っている。
あの人に時々殴られることもあったけど、
あれから反省して2人でDV専門のカウンセリングに行きはじめた。
子どもができたから、しばらくお店は開けられない。
生まれたら必死で育てなければならない。
あの人の援助なしでは生きていけない。
あたしとあの人はお互い愛し合っている。
あの人のケガが完全に治ったら、籍を入れることにしたし。
だから、
一吾には悪かったけど、こうするしか無かったのよ、と。