ぼくらのストロベリーフィールズ



尚紀くんはちらっと腕時計を見た。


今日はバイト休みって言ってたし、そろそろ弟クンのお迎えの時間かな。



「ま、いいよ。俺、一吾のこと惑わせたくなかったし」


「へ? どういうこと?」


「一吾みたいな危なっかしいヤツ、俺好きなんだよね。あ、変な意味じゃないよ」



尚紀くんはコーヒーを飲み終えてから、こう続けた。



「何か、ほっとけないじゃん。しかもあいついいヤツだし、面白いし」



確かに。いろいろと危なっかしい人だったなぁ。


突拍子もないことしたり、言ったり、やらかしたり。



のばらといると飽きない、と彼によく言われていたけど、


私も一吾くんといると飽きない、というか毎日が楽しかった。



ま、その分、ハラハラすることも多かったな……。



飲み終えたカップをテーブルに置くと、尚紀くんが返却コーナーに戻してくれた。


ありがとう、と伝え、席を立つ。



「俺はしばらく真面目に頑張りますから。家族のために、あと、のばらちゃんがボロボロにならないように」


「私は大丈夫だよ。追いかける覚悟決めてるもん」


「え、もしかして今、俺フラれた?」


「や、そういう意味じゃなくて! うーん、でも、そういうことかなぁ、ごめん……」



しゅんと下を向くと、尚紀くんに髪の毛をぐちゃぐちゃにされた。



交差点で別れる時、


「今日はありがとう、てか、本当にいろいろありがとう」と伝えると、


「これからもよろしく、って言ってくれた方が嬉しいんだけどなぁ」と言って尚紀くんは笑った。



遠ざかる尚紀くんの後姿を見ながら私は思った。



一吾くんは夜の暗闇が似合っていたけど、


尚紀くんは今みたいな夕焼け前の青空が似合っているな、と。



家に帰ってからスマホであの言葉を調べてみた。


あった。これかな?



『男が本当に好きなものは二つ。危険と遊びである。

そしてまた、男は女を愛するが、それは遊びのなかで最も危険なものであるからだ』



えーーーーと。



男は危険な恋が好きってこと?


いや、違うか。



男は女を愛さずにはいられないってこと、かなぁ。



もう! よく分かんないよ、尚紀くんーー!!




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