ぼくらのストロベリーフィールズ



「…………」



「チィーッス! おつとめご苦労さまでーす!」



彼女はそう言って、右手を額に添えびしっと敬礼した。



「別に、つとめてきてねーし」



思わず鼻で笑ってしまった。


この感覚が懐かしくて、愛おしくて、つんと目の奥が痛んだ。



「あれ? ちょっと会わない間に背ー伸びた?」


「さあ」


「だって私、今ちょっと見上げてるよ? 前は私とそんな変わらなかったのに」


「1か月ちょっとじゃ伸びねーよ」


「私もちょっとは胸大きくなったかなぁ」


「知らねーよ」


「ねー、今チラ見したでしょ? うわーえろーい」



「はぁーーーーー」



会えなかった期間の分のため息を一気に吐いてしまった。



彼女――のばらは何も変わっていなかった。



「あのさー、学校は?」


「休んでる。そろそろ一吾くん戻って来るかなって思って」


「ばかじゃねーの。ちゃんと行きなよ」


「やだよー。一吾くん絶対私に連絡くれなさそうだし」



本当は、彼女が僕を待ってくれたことが、たまらなく嬉しい。


だけどここで頼ってしまったら、一生すがりついてしまうかもしれない。



僕は1人で生きていかなければいけないのに。



「いろいろ落ち着いたら、ちゃんと連絡するから。だから帰って」



そう言って、僕は家に入ろうとしたけど。


彼女は僕の腕を強くつかみ、逆側へ引っ張った。



「一吾くんの帰るとこはここじゃないよ」



「は?」



「ここじゃない、よ……」



振り返ると、目に涙をためた彼女が喉をつまらせていた。



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