ぼくらのストロベリーフィールズ
住宅と居酒屋やスナックが混ざりあう通りの中。
ちらほら通行人がいるにも関わらず、僕たちの間だけ時間が止まったような、巻き戻ったような。
そんな不思議な感覚に僕は包まれていた。
彼女はしずくをこぼさないよう、口をぎゅっと結び耐えていた。
そして――
「はい」
と言って、僕に手を差し出した。
「なに?」
「子は親を選べないって言うけど、今、一吾くんは家族を選んでいいんだよ」
差し出された細くて白い手は、夕日のオレンジ色に優しく照らされていた。
声が震えてしまいそうで、
いったん深呼吸をしてから僕は口を開いた。
「何言ってるの。……のばらとは血ぃつながってないじゃん」
心の中にずっと持っていたどろどろした汚いものが、僕を素直にさせてくれない。
言葉とは裏腹に、視界が少しずつゆがんでいくのに。
「つながってなくても家族にはなれるよ。それとも戸籍とかの話?」
「…………」
「だったら2通りあるよ。一吾くんが私の家の養子になるかー」
ここまで言って、いったん彼女は言葉を止めた。
じっと彼女を見つめ続けていると、
急にもじもじと視線をそらしたり、あわせてきたりを繰り返してから、こう続けた。
「あと何年か待って、一吾くんが18歳になったら、私と…………うわっ!」
僕はその言葉を聞き終える前に、彼女の手を急いで引いた。
そして、もたれかかってきた彼女の華奢な体を、強い力で抱きしめていた。
「……うるせーよ……うっ、ばかじゃねーの?」
僕をせき止めていた何かが、崩壊していた。
呼吸が苦しくて、泣いているのがバレたくなくて、
彼女の肩に顔をうずめることしかできなかった。
「うっ……ううっ、……っく」
「よしよーし」
後頭部が優しくなでられた。
子ども扱いするんじゃねーよと思いつつも、新しい涙が次々とあふれていた。
好きだ。
もう一生離れたくない。離したくない。
僕が恋した人は、昔も、今も、のばらだけだった。
そして、これからも。