ぼくらのストロベリーフィールズ
そこから出てきたのはロングコートを羽織った、40代くらいの男性。
手には革のビジネス鞄、ちらっと見えた手首には金色に光る腕時計。
『…………』
その男性はかがんで、ゆっくりと僕の頭を撫でた後、
コツコツと固そうな靴の音を鳴らし、去っていった。
はっと僕は我にかえり、再び『お母さん!』と叫びながら、部屋に入った。
家の中はいつもと変わっていなかった。
母の部屋を開けると、乱れたシーツを整える下着姿の母がいた。
母は僕の姿に気がつくなり、無表情のまま近づいてきた。
パンと頬を殴られた。
『痛い……!』
熱のせいもあったのか、頭がぐらりと揺れ、しりもちをついた。
同時に、口の中に酸っぱさを感じ、目からはゆっくりと涙があふれ出した。
そんな僕に構わず母は部屋から出ていき、シャワーを浴びた後、仕事に行くと言って家を出て行った。
次の日、『ごめんね一吾、昨日はつい……。叩いちゃってごめんね……っ』と母に泣きながら謝られた。