ぼくらのストロベリーフィールズ
父と母が別居する。
その話が進み、現実になるのは、あっという間だった。
「いただきます」
珍しく父が家にいて、久々に3人で食卓を囲んだ。
母が最後に作ったのはカレー。
私が作ったものよりも味に深みがあって、
具もトマトと一緒に煮込んだのか、辛さの中に優しい甘さが混ざっていた。
「これからご飯とか、どうするの?」
「私一応、作れるって」
「お、のばらの手料理、期待してるよ」
明日から、母が実家に帰ることになった。
このまま一緒に暮らすのは辞めよう、と言ったのは父だった。
離婚はせず、まずは距離を置くことにしたらしい。
「レモンはしぼるだけじゃなくて、皮もすりおろしして使えるよ」
「へー。そうなんだ」
「あんた、いつもつめが甘いから。ちゃんと洗ったり、煮込んだりするんだよ」
「はーい」
最後にいくつか料理のコツとレシピを教えてくれた母。
その目には涙がたまっていた。
今、考えているのは後悔なのか、清々しさなのか、よくわからないけれど。
会えば言い争いばかりしている2人の姿を見るのは嫌いだった。
だけど、生まれてからずっと一緒だった両親がいざ目の前で離れ離れになるのは、
寂しくないと言ったらウソだった。