ぼくらのストロベリーフィールズ
だけど、なぜそう思ってしまったのだろう。
同情? 哀れみ?
私は一吾くんに対して、そんな感情を心の奥で抱いているのだろうか。
違う。そうじゃない。
そんな気持ちじゃない。
とりあえず、
「……ごめん。変なこと言っちゃったね」
と謝ってはみたものの、
「何であやまんの?」
と返されてしまった。
「…………」
黙り込んでしまう私を気にも留めない様子で、一吾くんは続けた。
「どうせ、何かめんどくさいこと考えてるんでしょ」
「え、違……」
「いいよ。なんでも言えば。おれ、お前が思ってるほど、たぶん何も考えてないし」
やっぱり、一吾くんはいつも説明が足りない。
本当に何にも考えていないのか。
それとも私の気持ちを見通して言葉を発しているのか。
頭の中はぐるぐるしつつも、
口の中には、自分の力では絶対に出せない味が広がっていく。
幼稚園の頃、毎日当たり前のように送り迎えをしてくれた姿、小学校の運動会の時の豪華なお弁当。
文句を言いながらも家事をこなしてくれていた姿。
「……っ」
母の記憶を鮮明に思い出し、涙があふれ出してしまった。
「あーあ。泣くと味わかんなくなるよ」
「そうだけど……」
そうつぶやいた瞬間、一吾くんはテーブル越しに冷たい指を私のほっぺたに当て、涙をぬぐってくれた。
そのひんやりとした感触に、どきっと大きく心臓音が鳴った。