恋に落ちるその瞬間



桜が小さな蕾をつけた。
いつもの道がそれだけで色づいたような気分になる。


ーー今日は高校の卒業式。


私は地元の会社に就職が決まったけど、私の好きなアイツは私の知らない土地の、どこかの大学へ行ってしまうから。


だから、言わなくちゃ、いけない。


言いたくて言えなかった、胸の中にある気持ち。


振られるって、わかってても。

彼女がいるって、わかってても。


言いたい。


ついこの間まで私よりも背が小さかったアイツ。

声だっていつの間にか低くなったアイツ。


顔は綺麗なくせに、大人しくて弱くて、でもとても優しい、


大好きなアイツに。


……でも。



「自信ない……」



ポツリと呟いた言葉は晴れ空に消えた。




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