臆病者達のボクシング奮闘記(第五話)
ドスンと音を立てて有馬が尻餅をついた。フルスイングした大崎の左フックが、有馬の顎にヒットしたのだ。
「馬鹿野郎! テメーはライトスパー(六分目で打つスパーリング)ろうが! 熱くなり過ぎなんだよ」
梅田の怒号が響き渡った。
大崎は、ハッと我に返ったような顔をした。
「す、すいません! ……有馬、大丈夫か?」
ロープ際にいた有馬は、ロープを掴みながら立ち上がった。
「だ、大丈夫です。まだ出来ますよ」
彼はそう答えたが、少し足がふらついている。同時にラウンド終了のブザーが鳴った。
梅田が言った。
「今日はもう終わりだ」
「まだ出来ます。あの左フックも見えていたんで、避けられなかった俺が悪いんです」
「パンチは見えてたんだな? だったらいい。お前はダメージがあるんだから、今は長椅子で横になってろ」
梅田にそう言われた有馬は、大崎と共にリングを出た。