臆病者達のボクシング奮闘記(第五話)
相沢と健太が、入れ替わりにリングへ入った。
保護具とグローブを外した有馬は、長椅子に行く前に康平に言った。
「アレをやると、パンチを打った時も相手が見えたぞ」
スパーリングの最中、有馬は目を大きく開けて戦っていた。それに気付いていた康平は、自分もやろうと思った。
リング上では、スパーリングが始まっていた。
相沢と健太は、共に身長は百七十センチだが、構えは大きく違っている。
オーソドックススタイル(右構え)の相沢は、両グローブを口の前に置き、膝でリズムを取った。一定の間隔で、頭が上下に小さく動く。
サウスポースタイルの健太は、右グローブを大きく出し、左グローブを口の前に置いて構える。
前回、森谷と行ったスパーリングの時には、左ボディーブローばかりを狙って後ろ足重心になっていた。
今回、重心は直り、上がり気味の顎はしっかり引いている。