臆病者達のボクシング奮闘記(第五話)
翌日、康平が亜樹にその事を伝えると、亜樹は嬉しそうに言った。
「良かったね。お父さんは、ちゃんと康平の事を見てたんだよ。でも、私がいないと数学は駄目なんだろうね」
放課後、部活が始まる前に梅田が言った。
「十二月になったら、一年生同士でスパー(リング)を始めるからな」
一年生達は、緊張した顔付きになった。今までは、先輩達とのスパーリングだった。キャリアも違ったので、やられて元々という気持ちがあった。だが、同じ日から習い始め、同じように練習してきた者同士でのスパーリングである。一年生全員から、負けられないという気持ちが沸き上がった。
その日から一年生達の練習は、より一層真剣なものへと変わっていった。
腰高の白鳥は、シャドーボクシングの際、極端な程重心を落とし、パンチを上向きに繰り出した。
パンチを放つ時、目を閉じる癖のあった康平と有馬は、常に目を閉じないように意識した。
顎が上がり気味だった健太は、練習中常に上目遣いで前を見るように心掛けた。