臆病者達のボクシング奮闘記(第五話)

 
 
 練習が終わり、康平と健太は一緒に帰った。

 一年生同士のスパーリングとなれば、グローブを交えるのは、体重が近いこの二人である。

 二人は、いつもより会話が少なく、話をしても何処かぎこちなかった。



 数日後。部活の終わり頃、健太は有馬に、自分の顔面へ軽くパンチを打つようにと頼んだ。

「避ける練習か?」と有馬が訊いた。

「そういう訳じゃないんだが、とに角打ってくれ。……軽くな」


 有馬が軽く左ジャブを放った。スピードも遅めだ。だが、そのパンチは健太にヒットした。

 不思議そうな顔をする有馬に、健太が言った。

「いいから続けてくれ。軽くだったら右でもいいぞ」


 有馬の出すパンチが、悉く健太に当たっていた。だが健太は、何事も無いような顔をして続けている。当たっているのは、顔面ではなく額だった。

< 4 / 21 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop