臆病者達のボクシング奮闘記(第五話)
ストレッチをしている康平も、健太の様子が気になった。
近くにいた飯島が、ニヤリとしながら頷いた。
「ハハーン。そういう事か」
「どういう事ですか?」
康平が訊くと飯島は答えた。
「片桐は、顎の上がる癖があったからな。あーやって額でパンチを受けて、逆に顎を引く癖を付けてるんだと思うぞ」
梅田が健太に指摘した。
「片桐。どうせやるなら、パンチを貰っても目を瞑(つぶ)らないように意識しろ」
飯島が呟いた。
「自分に当たるまでパンチを見るのは、なかなか出来ないからな」
康平の隣でストレッチをしている白鳥が質問した。
「で、でもパンチを貰うって事は、み、見えないから貰うんじゃないですか?」
「それだけじゃ無いんだよ。プロの世界タイトルを、テレビで観る時あるだろ? それでCMの後に、前のラウンドでパンチの当たったシーンとかを、よくスローモーションでリプレイするよな?」
「……はい」
「それを見るとなぁ、パンチが当たる直前になると、貰う方は大概目を瞑ってるんだよ。世界チャンピオンクラスでもな」