臆病者達のボクシング奮闘記(第五話)
今度は康平が訊いた。
「パンチが見えてるのに貰っちゃうんですか? ……それだったら、避けた方がいいと思うんですけど」
「パンチが見えても、対応出来ない時があるんだよ。例えば打ち終わる直前や、コンビネーションを打っている最中にパンチがきた時さ」
更に飯島は付け加えた。
「まぁ何よりいい事は、片桐が積極的に顎を引こうと取り組んでいる事だ。いくら練習しても、自分が直そうとしなかったら、癖はなかなか直らないからな」
「先生。あの練習をすれば、僕のパンチを打つ時に目を瞑ってしまう癖も、直り易くなるんでしょうか?」
康平が質問すると、飯島はニヤニヤしながら答えた。
「さぁ、どうだろうなぁ。……まぁ、自分で色々やってみるのもいいんじゃないか?」
「白鳥、ちょっと付き合ってくれないかな?」
「……いいけど、僕にも打って貰っていい?」
練習後のストレッチをしていた二人は、一度外したバンテージを巻き直し始めた。