臆病者達のボクシング奮闘記(第五話)
 
 健太が言った。
 
「もういいよ。有馬、ありがとな。……お前はやんなくていいのか?」

「俺はいいよ。……自分だけ打って終わる練習は、何か得した気分だよな。明日も打つ側だったら手伝ってやるよ」

 有馬はそう言ってグローブを戻し、バンテージも外し始めた。

 彼がストレッチをしている時、康平が白鳥に軽いパンチを打っていた。


 あれ、何で白鳥までやってんだ?

 じっと見ている有馬に、飯島が言った。

「白鳥も十二月は、誰かさんに負けたくないんだろうな」


 白鳥と体重が近い有馬は、すぐに立ち上がり、健太にねだった。

「頼む健太。俺にも打ってくれ」

「お前いいって言ったじゃん?」

「き、気が変わったんだよ。だから頼む。な、な」


 二人は再びバンテージを巻き直し始めた。


 健太がやった練習は、結局四人の一年生が毎日続ける事になった。
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