臆病者達のボクシング奮闘記(第五話)
更に数日が経った。練習が終わる頃、一年生達は、お互いの額を打ち合っていた。
この日、康平は有馬とパートナーを組んだ。
有馬は細目で目付きが悪い。
有馬がパンチを打とうとした時、彼は大きく目を見開き、それと同時に鼻の下がグーッと伸びた。
康平は笑いそうになってしまった。
笑っちゃ駄目だ。有馬は真剣なんだ。
心の中で自分に言い聞かせる康平だったが、どうしてもニヤけた口が直らない。
咄嗟に彼は、ピーカブースタイル(口の前に両グローブを置くスタイル)で口元を隠した。
有馬が訊いた。
「康平、構えを変えたのか?」
「ち、違うよ。こ、この方がデコを打ち易いだろ。……それより、今日の有馬は何か違うんだよな」
「今日から、目を大きく開けて集中するようにしてたんだよ。俺達はアノ癖があるからさ。康平もやってみろよ。何かいけそうな気がすっからさ」
見かけはヤンチャだが、有馬はいい奴だ。
そう思う康平だったが、笑いそうになる口元を直す事が出来ず、彼はピーカブースタイルのまま練習を続けた。