臆病者達のボクシング奮闘記(第五話)
パンチを打つ側にまわった康平は、有馬を真似て、目を大きく開けながら集中するように心掛けた。
今までと感覚が違った。有馬にパンチが当たった時、彼の顔がよく見えた。
康平は有馬に頼んだ。
「有馬、今度は避けてくれないかな?」
有馬は何か感じたらしく、快く応じた。
康平がパンチを放つ。かわされた瞬間、有馬の姿が鮮明に見えた。
スパーリングの時、自分がパンチを打った後、訳が分からないまま先輩のパンチを貰っていた。ちゃんと目を開けていたら、避けられたかも知れない。
自分はもっと強くなれる。
そう思った康平は、嬉しくなって口許が綻んでいた。
「康平、何ニヤついてんだよ?」
怪訝な顔で訊いてくる有馬に、康平は今自分が思った事を話した。
「避けられた方が分かるのかもな。……じゃあ、今度は俺が打つからな」
有馬に頼まれ、彼のパンチを康平がかわした。
有馬の顔がニヤついていた。彼も何か感じとったようである。
二人は遅くまで練習を続けていた。