ずっと、君に恋していいですか?
ドラマなんかでよく見るような、立派な表紙の付いた大層な物ではなかったが、スナップ写真とは言えそれはまぎれもなくお見合い写真で、そこには誠実そうな男の人が少しかしこまった顔で写っていた。

「静間 創(シズマ ハジメ)さんって方でね、35歳で次男で、もちろん初婚よ。」

「はぁ…。」

グイグイ迫ってくるおばさんの気迫に押され、薫は言葉が出ない。

「薫ちゃんもそろそろいいお年頃でしょ?」

(もう30でしょって、ハッキリ言えばいいじゃない…。)

薫は母親の淹れたお茶を飲みながら、眉間にシワを寄せた。

「優しくてホントにいい方なの。結婚相手には申し分ないわよ。で、いつにする?」

結婚はおろか、お見合いするとも言っていないのに、おばさんはすっかりその気になっているようだ。

薫は湯飲みをテーブルに置いてため息をついた。

「あのね…前にお母さんにも言ったけど、私、今付き合ってる人がいるから…。」

「それはそれでしょ?まだその人とは結婚する気がないなら、人生の選択肢をひとつ増やすつもりで会うだけ会ってみたら?」

志信の事を、単なる“人生の選択肢のひとつ”とは思えない。

志信以外の人と結婚する事は、微塵も考えられない。

(とりあえず結婚すればそれでいいの…?)

実際いい人なのかも知れないが、結婚する気もないのに“会うだけ会ってみる”なんて、相手に対して失礼すぎる。

「お見合いはしないよ…。私は彼以外の人とは考えられないから。」

薫がハッキリ断ると、おばさんは首をかしげた。

「じゃあ、どうしてその彼と結婚しないの?」

「どうしてって…。とにかくお見合いはしないから。」




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