ずっと、君に恋していいですか?
志信は、入社3年目の頃の自分は実家から通勤していてもたいした貯金などなかったのにと、驚いて言葉も出ない。

「バイト時代からの貯金があったからね。入社後のボーナスもほとんど手付かずだったし。私、生活費とお酒とタバコ以外はあまり使うところないから。」

「そうか…。」

(堅実なんだな…。オレとはえらい違い…。)

一人暮らしの家賃や生活費を賄い、少しの貯金をする程度の給料とボーナスはもらっている。

特別金遣いが荒いとは思っていないが、入社してもうすぐ丸8年になる今も、たいした貯金はできていない。

高い車を選ばなければ現金で買う事もできるだろうが、そんな事をしたら、なけなしの貯金は一気に吹き飛んでしまう。

(そういえば…結婚資金考えてなかった…。)

長い期間彼女がいなかったので、将来の事などろくに考えていなかった。

薫と付き合い始めた後も、いずれは結婚したいと思うものの、それはただ一緒にいたいという気持ちばかりで、具体的に現実を見ていなかったと、志信は改めて気付く。

(ダメだ…。こんなんじゃプロポーズなんて絶対できない…。)

薫は、急に黙り込んでしまった志信の顔を、覗き込むように見上げた。

「どうしたの?」

「いや…。なんでもない…。やっぱり車買うのはやめとく。あんまり使わないのにもったいないしな…。」

「うん…?必要な時は私の車、使っていいよ。私が通勤とかで使ってなかったらだけど。」

「そうだな…。そうする。」

仕事だけでなく経済的にも彼女に敵わないのが情けなくて、志信はガックリと肩を落とした。

(ホントにオレ、薫に勝てるものがなんにもねぇ…。)





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