ずっと、君に恋していいですか?
梅雨が空け、また暑い夏がやって来た。

仕事が休みだったその日、薫は母親から食事でもしようと実家近くの懐石料理の店に呼び出された。

懐石料理なんて珍しいと思いながら足を運ぶと、案内された個室では、母親と赤松のおばさん、そしてなんとなく見覚えのあるスーツ姿の男性が待っていた。

(えーと…誰だっけ?)

記憶をたぐりながら席に着いた時、それが以前見せられたお見合い写真に写っていた男性だと薫は気付く。

(こっ…これ、お見合いか…!)

薫は今すぐその場から逃げ出したい衝動にかられながら、隣に座っている母親の脇腹をひじでつついた。

母親は涼しい顔で、素知らぬふりをしている。

(お見合いなんてしないって言ったのに…!!)

薫は仕方なく、この場をなんとかやり過ごそうと、向かいの席に座っている男性に軽く会釈をした。

男性もにこやかに笑って会釈を返す。

「薫ちゃん、前に言ってた静間さんよ。今日は一緒にお食事しましょうね。」

「はぁ…。」

薫が気の抜けた返事をすると、母親がひじで薫の腕を強めに小突いた。

(いっ…たー…。)

「もうちょっと愛想よくできないの!」

「これが私の普通です。」

薫がぶっきらぼうに答えると、母親は取り繕うように笑って、静間に愛想を振り撒いた。

「ホントにすみませんね、この子ったら愛想がなくて…。」

「いえ…お気になさらず。普段通りでいいんです。」

静間は気にもとめない様子で、穏やかに笑みを浮かべている。

(普段通りって…ガツガツ食べて酒飲んでタバコ吸って?無表情で無愛想でいいって事か?)


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