ずっと、君に恋していいですか?
居酒屋を出て、志信は足取りのおぼつかない渚をマンションまで送った。

志信は部屋の前で渚が鍵を開けるところを確認して帰ろうとした。

「じゃあな、おやすみ。」

「志信くん…!」

その瞬間、渚は志信の胸にしがみついた。

「なんで…なんでこんなに近くにいるのに…こんなに好きなのに、私を見てくれないの?」

「渚…。」

「一緒にいても不安だから彼女と別れたんでしょう?それなのに…。」

志信は胸にしがみつく渚の背中を、子供をあやすようにトントンと軽く叩く。

渚の髪からは、志信の知らないシャンプーの匂いがした。

(違う…。オレが好きなのは、この匂いじゃない…。オレが好きなのは…。)

「ごめんな…。オレは今でも彼女の事が好きだ…。終わりにしようって彼女に言った事、今でも後悔してる…。」

「…だったら…最初から優しくして期待なんかさせないでよ…。」

「ごめん…。」

渚は志信から手を離し、涙を拭った。

「後悔するくらいなら…ちゃんと伝えたら?今でも好きだって…。」

そう言って渚は静かにドアを開けた。

「じゃあね…おやすみ。」

渚が部屋の中に入りドアが静かに閉まると、志信はため息をついて歩き出した。

(ごめんな…。オレが好きなのは…薫だけなんだ…。)




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