ずっと、君に恋していいですか?
その頃。

また会社の前で待っていた静間と居酒屋で食事をしてお酒を飲んだ薫は、マンションまでの道のりを静間と二人で歩いていた。

送らなくてもいいと何度も言ったのに、静間は“もう遅いから”と言って、半ば強引に薫の後をついて来た。

(ホントに大丈夫なのに…。)

特にこれといって話す事もなく、薫は黙ったまま歩く。

いつも志信と手を繋いで帰ったこの道を、別の人と歩いている。

友達でもなく、恋人でもない。

静間の事はいい人だとは思うが、この先もきっと、静間とも他の誰とも、志信以外の人と恋をする事はないと思う。


どうして静間に会社の前で待っていろと言ったのかと母親に電話をして文句を言うと、この先も一人でいるつもりなのかと言われた。

志信と別れた後、帰りが遅くなった日は山寺SSから実家に帰ったりもしたので、薫が志信と別れた事に、母親は気付いていたようだ。


“いい加減、現実を見なさい。”


別れても志信の事が忘れられない薫に、母親は容赦なく言い放った。


“静間さんと結婚しなさい。あの人ならアンタを大事にしてくれるし、きっと幸せになれるはずよ。”


母親は娘の将来を心配して言ったのだろうが、薫にとってそれは、志信と過ごした幸せだった日々をすべてなかった事にしろと言われているようで、とてもつらく悲しかった。



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