ずっと、君に恋していいですか?
マンションの前まで来ると、薫はお礼を言ってそこで別れようとした。

「薫さん。」

「ハイ。」

薫が振り返ると、静間は薫を抱きしめた。

「あ…あの…?」

「僕は薫さんが好きです。」

「えぇっ…。」

突然の静間の告白に、薫は目を見開いて身動きが取れないでいる。

「僕との事、真剣に考えてくれませんか?」

「いや…あの…。」

薫が押し返そうとすると、静間は薫を少し強引に引き寄せた。

「好きです。」

静間は薫の唇を強引に塞いだ。

「……!!」

突然のキスに薫は目を見開き、思いっきり静間の胸を押し返した。

「やめて…。」

薫は口元を手の甲で押さえ、唇を噛みしめた。

「別れた恋人より、僕を好きになって欲しい。絶対に幸せにするから。」

「もう来ないで下さい…。私は今も…この先もずっと…。」

涙が溢れそうになって、薫は静間に背を向けマンションの中に駆け込んだ。



部屋に帰ると、頭からシャワーを浴びながら、唇を手の甲でこすった。

涙が後から後から溢れて、お湯と混じり合って流れていく。

志信の唇はもう二度とこの唇に触れる事はないのだと、志信との甘く優しいキスの記憶を塗り潰されたような気がした。

抱きしめられて幸せな気持ちになれるのも、安心できるのも、志信だけだ。

もうこれ以上、志信以外の誰にも触れて欲しくない。

(どんなに優しくても…志信じゃなきゃイヤだ…。)



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