ずっと、君に恋していいですか?
薫が他の男と手を取り合って笑っている姿が頭に浮かび、志信は悔しくて奥歯をギュッと噛みしめる。

(別れた事ずっと後悔してたのも、忘れられなかったのも、オレだけだったんだ…。)


“志信、大好き。”


“ずっと一緒にいるよ。”


そう言って照れ臭そうに笑う薫の声が、耳の奥に何度も響いた。

あんなに好きだと言っていたのに、別れてたったの半年で、薫はもう新しい相手を見つけて自分のいない未来へ向かっているのだと、ため息をついた。

(オレに薫を責める資格なんてない…。終わりにしようって言ったのはオレだ…。)

あの時あんな事を言うんじゃなかったとか、やっぱり好きだともっと早く言うべきだったとか、後悔ばかりが胸に押し寄せて、志信は思わずシャツの胸元をギュッと掴んだ。

(オレは薫を完全に失ったんだな…。)

その時ふと、二人で初詣に行った時に引いたおみくじの文字が浮かんだ。


“失せ物注意すべし”


(あれ…薫の事だったのか…。)

おそらく薫の“良縁”は、そのお見合い相手の事だったのだろう。

失ってからその大切さに気付いたって遅すぎる。

だけど、できる事ならもう一度だけ、薫に気持ちを伝えたい。

別れの時でさえ、薫と会う事はできなかった。

福岡への転勤を告げたあの日のまま、志信の心の中で薫は“待って”と泣きそうな顔をしている。

(薫…最後にもう一度だけ…君が好きだって、言ってもいいかな…。)




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