ずっと、君に恋していいですか?
その日の夕方。

薫は定時になってもSS部に戻って来なかった。

志信は石田や梨花たちに誘われ、本社勤務の時によく足を運んだ居酒屋にいた。

いつもみんなでバカみたいに笑いながらお酒を楽しんだこの場所に、薫だけがいない。

薫に会いたい。

できる事ならもう一度この手に抱きしめて、他の誰にも奪われないように、連れ去ってしまいたい。

だけどそれは自分の身勝手な願いだ。

薫が幸せになれるなら、その幸せを邪魔するべきではない。

頭ではわかっているのに、薫は他の男のものになってしまうのだと思うと、胸が張り裂けそうに痛んだ。


「笠松…今更なんだけどな。オマエが福岡に行った後、オマエから預かってた物、卯月さんに渡したんだ。」

「ハイ…。」

「オマエの誕生日も、オマエが福岡に行く日だって事も気付けないほど忙しかったんだな。仕事を捨てられなかった自分を責めてさ…オマエに嫌われても仕方ないって。ホントは離れたくなかったってさ…あの子、泣いてた…。」

「え…。」

石田はタバコに火をつけて、煙を吐きながら志信の顔を見た。

「今更か…。もう半年も前の話だ。」

「そうですね…。」

この半年、薫の事を考えない日はなかった。

会いたくて、恋しくて、離れても心はいつも薫で溢れていた。

今でもその気持ちは変わらない。

志信は拳を握りしめて立ち上がる。

「石田さん…。オレ、行ってきます。」

「どこに?トイレか?」

「大事な人のところです。」

志信は店を出て、薫のマンションへ向かって駆け出した。

今、薫に会って伝えなければ、一生後悔するかも知れない。

たとえそれが最後になったとしても。




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