ずっと、君に恋していいですか?
「薫さん。」

会社を出たところで、薫はまた静間に呼び止められた。

「…もう来ないでって言ったのに…。」

「一緒に飲みに行きませんか?」

「ごめんなさい、今日は帰ります。」

薫が自宅に向かって歩き始めると、静間は薫の隣をついて歩いた。

「送らなくていいですよ。」

「僕がそうしたいからしてるんです。」

「…そうですか。」

そのまま何も言わずに歩いた。

マンションの前まで来ると、静間は薫に頭を下げた。

「薫さん…。この間は突然あんな事してすみませんでした。焦ってしまって…少し急ぎすぎたようです。」

「静間さん…私は…。」

薫がもう一度きっぱり断ろうとすると、静間は薫の手を握った。

「薫さん、僕と結婚を前提に付き合ってください。」

「……。」

それがまるで他人事のように聞こえて、薫はしばらくそのまま立ち尽くした。

(結婚を前提に…って…言われても…。)

「好きなんです。もうこの間みたいな強引な事はしません。薫さんの気持ちが僕に向くまで待ちます。だから、僕と結婚してください。」

目の前にいる静間の言葉を聞いて、薫はその言葉を志信の口から聞きたかったと思う。

他の人にプロポーズされている時でさえ志信の事を考えている自分に気付き、薫は涙を浮かべながら微笑んだ。

「ごめんなさい。やっぱり私は、静間さんとはお付き合いも結婚もできません。こんな時でさえ、彼の事を考えてるんです。」

「僕ではダメですか?薫さんを幸せにしたいんです。」

薫は自分の手から静間の手をゆっくりほどき、首を横に振った。


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