ずっと、君に恋していいですか?
定時になり、更衣室で着替えを済ませた薫は、いつものように喫煙室に向かった。

(あれ…?珍しいな…。)

いつもなら喫煙室の前で薫を待っている志信の姿が、今日は見当たらない。

喫煙室の中にいるのかと、小窓から室内を覗いてみる。

(いない…。タバコでも吸って待ってようかな…。)

薫は喫煙室の中に入り、長椅子の端に座ってタバコに火をつけた。

いつも一緒にいる石田たちの姿も見えないので、もしかしたらまだ部署にいるのかも知れないと思い、薫はポケットからスマホを取り出した。




石田、前川、三井の3人は、志信を気の毒そうに眺めていた。

いつもなら定時になると、薫に会うためいそいそと喫煙室に向かう志信が、今日は浮かない顔でノロノロと帰り支度をしている。


「笠松のやつ、放心してんな…。あんな決定打くらって大丈夫か?」

「ただでさえ気にしてんのに、あれはかなりの破壊力だったからな…。」

「僕だったら立ち直れません…。」

志信は、小声でヒソヒソと話す3人をたしなめる余裕もないほど放心しているようだ。

ようやく帰り支度を終えて立ち上がった志信のポケットの中でトーク通知音が鳴った。


【仕事、長引いてる?
喫煙室で待ってます。】


メッセージを確認した志信は、返事をする気力もなくて、スマホをそのままポケットにしまった。




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