ずっと、君に恋していいですか?
志信が取り繕うようにタバコに火をつけると、渚は志信の手元のタバコの箱をじっと見た。

「タバコ、変えたんだね。昔と違う。」

「ん?ああ。そんな事まで覚えてるんだ。」

「覚えてるよ。付き合ってた期間は短かったけど…志信くんの事、本気で好きだったから。」

「……そうか。」

(そういえば薫も、前にオレが吸ってたタバコが、あの人と同じだって言ったな…。あの人にキスされてオレの事思い出したって…。自分が今好きなのはこの人じゃないと思ったんだって言ってたっけ。オレは…キスするたびにあの人とのキスを思い出されるのがイヤで、別のタバコに変えたんだった…。)

志信は黙ってタバコに口をつける。

新入社員の頃の社内恋愛なんて、ここしばらく思い出した事もなかった。

昔の彼女の事は、あまり大事にしなかったような気がする。

(大事にしてやれなくてごめんな、とか…。今更だよなぁ…。)

黙って考え込む志信の様子を見て、渚はおかしそうに笑った。

「そんなに困った顔されたら、私の方が困っちゃうよ。もう昔の話だね。」

渚はビールを飲み干して、腕時計を見た。

「そろそろ出なくちゃ。飛行機、間に合わなくなっちゃう。」

「駅まで送ろうか?」

「お願いしようかな。」






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