ずっと、君に恋していいですか?
薫は一人でとぼとぼと寒い夜道を歩いていた。

志信の部屋の前でしばらく帰りを待っていたけれど、電話をしても繋がらず、メッセージの返事もなかった。

薫の部屋を出た後どこかに出掛けてしまったから、“今日はもう会わなくていい”と言ったのかも知れないと思い、薫は仕方なく自宅に戻る事にした。

そういえば最近帰りが遅くて、買い物をする余裕もなく、冷蔵庫の中にはろくなものが入っていない。

いつも帰り道の途中のコンビニで飲み物や弁当を買って夕飯を済ますのがやっとだった。

外に出たついでに買い物でもして帰ろうか。

(志信、どこにいるんだろう…。やっぱりもう一度電話してみようかな…。)

もし志信に会えたら、せめて夕飯だけでも作って一緒に食べられたらと、薫はポケットからスマホを取り出した。

志信の電話番号を画面に映し出して、通話ボタンをタップする。

呼び出し音に重なって、向こうの方から着信音が鳴り響いた。

「え…?」

もしかしてすぐそばに志信がいるのかもと角を曲がった時、見知らぬ女性と並んで歩く志信の後ろ姿が視界に飛び込んできた。

志信はその女性の物らしき荷物を手に持ち、並んで歩く二人の姿はやけに親しげに見える。

(誰…?)

志信は後ろにいる薫には気付かず、ポケットからスマホを取り出し、画面を見ている。

そして、電話には出ずに、もう一度ポケットにスマホをしまった。

薫はスマホを握りしめて、その光景を呆然と眺めた。

呼び出し音が途切れ、機械の音声が流れ始めると、薫は電話を切って、スマホを握りしめたままその場に立ち尽くし、二人の背中を見つめていた。


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