君はオレを好きになる。
Rain downpour
最悪…なんでいっつも、こうなちゃうの?

思い切って一人旅をしたのが間違いだった。

いつも本ばかりに囲まれて暮らしていた私が、たまたま紛れていた両親が残した旅行雑誌を見てしまったのが、この悲劇の始まりだったのかもしれない。

何故だか幼い頃から外の情報が嫌いで、本ばかりを読んでいた。

そうしとけばよかった…。

思い立ったらジッとしてられない性格が災いしたんだ。

道に迷った挙句、携帯は落とすし、地図はこの土砂降りの雨でボロボロになって、ただの紙くずになってしまった。

とりあえず雨宿りと屋根を借りてるマンションの下で、もう30分も座っている。

閑静な住宅街のアスファルトを激しく打ち付ける雨の音だけが聞こえる。

この雨のせいか、人が居ない…ここって大都会じゃないの!?

まだ暑い夏の終わりなのに、濡れた体のせいか、さっきから震えが止まらない。

目の前に止まった車から、一人降りて来た。

こちらに向かって走って来る。

あぁここの住人か…。

ちらっとこっちを見たけど通り過ぎた。

東京は冷たい…ってやっぱり本当かも。

いや、私だって、この状況なら『変な人…』って思うだけかもしれない。

どうしよう…本当に寒い。

「あの…。」

マンションに入って行ってしまえば、次いつ人に会えるかわかんないって思ったら声を掛けていた。

「えっ?俺?」

男性は20半ばぐらいで高身長、とても整った顔だった。

「あの…私道に迷って、携帯も落としてしまって…出来たら携帯貸してもらえませんか?」

「俺が君に!?」

「えっと、じゃどこか近い駅教えてください。」

「なんで、俺が!?」

やっぱり、やっぱり東京は冷たい。

「お願いします。もう30分もここにいるんですけど、貴方が初めて見た人なんです!!」

「いや、そんな事言われても…」

私は必死に、男性にしがみついた。

よろけた男性の帽子が落ちた。

慌てて帽子を被り直す。

「見た??」

「はい…?」

何を?この人は何を言ってるのだろう?

「えっ…と…君は俺を知らない?」

「えぇ…会った事はないと思いますけど…」

あれ…なんか頭がクラクラする…これはなんだかヤバイかもしれない。

「えっ…ちょ、ちょっと待って……。」

あぁ…この人って慌てた顔も…本当に綺麗な顔立ち…な…んだ…。

薄れ行く意識の最後に、私ってなんてバカな事思ったんだろう…。




< 1 / 21 >

この作品をシェア

pagetop