君はオレを好きになる。
瑛斗は車を駐車場に入れると家に戻り仕度をすると、7時丁度には一階に降りた。

「おはよう。」

運転席の窓が開きマネージャーが顔を出した。

「うん。おはよう。」

「なんだ…また女のところにでも行ってたのか?!」

瑛斗は後部座席に乗り込んだ。

「女もいいけど、くれぐれ撮られるのだけは気をつけてくれよ!」

「うん…。わかってる。杉本さん…」

「何?」

「今日何時終わり?」

「予定では20時ぐらいかな。雑誌の撮影二本とドラマの撮影。」

「一昨日のシーン?」

「いや、あのシーンは後回しで控えてたシーンをするみたいだよ。」

「そっ…わかった。あとで台本チェックしなきゃ…。」

「今日ところチェックしてるから。」

そう言って杉本は台本を瑛斗に渡した。

「さすが…敏腕マネージャー!」

「お前が言うと嫌味だな。」

「本音言ったのにぃ!?」

「はいはい。その可愛さ出せばいいのにな。」

「裏の瑛斗を知ってるのは杉本さんだけ!」

「語尾にハートを付けて言うな!ほら、もう着くぞ。」

その言葉がいつもの決まりになっていた。

杉本の言葉で瑛斗は桐生 瑛斗になる。

背筋を伸ばしサングラスをかけ、杉本に甘えてる瑛斗は居なくなる。

車を降りるとファンに囲まれて事務所に入る。

あのファンの中に向日葵がいればいいのにと思ってしまった。

拾った猫は恩を忘れて逃げていきましたとさ…。

たった数時間過ごしただけの女に、こんなにも想いが引きずられるなんて思ってもみなかった。

けれど、もう居なくなった女は記憶から消すしかない。

それをするのが一番楽な事を知ってる。

簡単な事。

いつもの生活に戻るだけだ。

なのに今回はなんだか、上手く行かない。

今日の雑誌の撮影は一枚も良いのが撮れず、ドラマはNGばかりで、結局後日になってしまった。

瑛斗の様子が今までにない事から杉本は急遽スケジュールを全てキャンセルし三日間の休みを入れた。

仕事は21時前に終わったが心配した杉本に病院に連れて行かれ、帰って来た時には0時手前になっていた。

「何もなかったけど、先生が言ってた通り疲れてるんだろ…三日間何も考えず休め。何かあれば、些細な事でもいいから連絡しろ。わかったな?」

「うん。ありがと。」

「じゃな。お疲れ。」

走り去って行く車を見送ると瑛斗はマンションに足を向けた。

あの閑散とした部屋に帰るのかと思うと少しげんなりした。

居心地の良い家だったはずなのに、あの子が居ないだけで、泣きそうになってる自分が居る。

瑛斗はマンションと逆の方向に体を翻した。

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