君はオレを好きになる。
恋心
「君は俺を好きになる。」

そう言われて心臓が口から出てしまうんじゃないかと思った。

舞い上がりそうな程、嬉しかった。

吸い込まれそうな目が私を見ていて…ん?ちょっと待って!

私が瑛斗さんを好きになれば一人じゃなくなるだろって…瑛斗さんは、私が好き…?

まさか、そんなわけない。

でも、そうだとしたら?

瑛斗の寝室の前で立ち止まる。

ドアに手を添えた。

この奥に瑛斗さんが居る。

ドア一枚の向こう側。

もし瑛斗さんが私を好きだったとしたら?

ここに居れなくなる?

好きかどうかは、わからないけど、ここに居たい。

一人で居るのは、もう嫌。

寝室に入るとモノトーンの部屋が心を冷たくする。

明日買い物の時に、お願いしてみよう。

色のあるインテリアを…。

ベットに横たわり思った。

両親は私が小学一年生の入学式の前日、事故で死んだ。

入学式の前日、私たち家族は食事に出掛けた。

その帰り道、飲酒運転の車に衝突され、私たち家族の車はガードレールを越え崖下に落ちた。

後部座席に座っていた私だけが衝撃で道路に放り出され死なずにすんだ。

両親は車ごと崖下に落ちて行った。

無傷だった私は落ちて行く車を見ていた。

お母さんと目が合いながら…スローモーションの様にゆっくりと落ちて行った。

そこで私は意識を失い、次に目を覚ますと泣きまくっている祖母が居て真っ白な病院のベットの上だった。

結局入学式に出ることはなく、行く予定だった小学校にも行かなくなった。

両親が死んだ事によって祖母の家に行く事になり田舎の小学校に転校になった。

行くはずだった小学校は一度も門をくぐる事なく転校する事に、子供ながらおかしくなった。

幼稚園からの友達には何も言わず、挨拶をする事なく引越しをした。

私の事を考えてくれたのか、引越ししてから夏が終わるまで私は学校には行かなかった。

その間祖母と二人で過ごした。

祖母は目の前で両親を亡くした私を大切に大切に育ててくれた。

褒める時はう〜んと沢山褒め、叱る時は般若の形相で怒った。

なによりも心にぴったり寄り添ってくれる人だった。

事故があった日。

毎年やってくる両親の命日に祖母は黙って、いつも私と一緒に寝てくれた。

祖母は亡くなる年の時まで、それだけは変わらなかった。

祖母は貧しい中でも私への出費はケチる事なく育ててくれていた。

祖母が亡くなり生命保険のお金が入ったけれど、私は高校を辞めた。

高校に進学した理由は祖母の為だった。

中学卒業をしたら働きたいと言ったけど、高校に行って欲しいと言われて行っていたから…。

その祖母が亡くなり行き続ける理由がなくなったので、あっさり辞めた。

行く気力がなくなったという方が正しいかもしれない。

文字通り天涯孤独になった私は、高校に行く気力より生きて行く気力も無くなっていた。

部屋に閉じこもり本ばかりを読んでいた。

あの日ボロボロの旅行雑誌を見つけなければ、この東京に来る事もなかった。

東京の旅行雑誌を見つけ、スカイツリーを思い、来たものの道に迷い…瑛斗さん出会った。

もしかしたら両親が…祖母が会わせてくれたのかもしれない。と思った。

瑛斗さんに言われなくても、きっと私は瑛斗さんを好きになる。

ツンとした態度も口が悪いところも、優しいところも目が離せない。

だから、ここに戻って来たんだと思う。

けれど、瑛斗さんは雇主で私は家政婦。

だから、それ以上の事は望んではいけない。

望んでなくなる可能性があるなら、私は現状維持を取る。

求めた人が居なくなってしまうのは、もう嫌だ。

この気持ちが例え愛情になったとしても、隠し通そう。


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