流れ星スペシャル
「あ、そっか。飲食店やもんね」
アズはそう言うと、手を開いて自分の指先に目線を落とした。
白から淡いピンクのグラデーションがつややかに光る中に、小さな花が散りばめられているキレイな爪。
流れ星は飲食店だから、不衛生なものやそういう印象を与えるものは基本NGだ。
ネイル、指輪、香水は禁止。
マニキュアが剥がれて料理に混ざる恐れがあるし、指輪は指との間に細菌が発生しやすい。
香水は料理の香りの妨げになるから。
爪は短く切らなければいけないし、ヒゲはNG。長髪は束ねなければならない。
ただ茶髪とピアスはOKだから、流れ星の規則は飲食店としてはゆるい方なんやけど。
「でもこれ、簡単には剥がれへんから大丈夫やよ」
指先を見ながら、アズは言った。
「わかってる。ネイルサロンへ行って、お金払って剥がしてもらわな取れへんねんな?」
「へぇ、男の子やのによう知ってる」
「でも、やっぱ決まりは決まりやから困るねん。嫌がるお客さん多いと思うし、うるるんかてネイルしたいやろーけどガマンしてるから」
なるべく事務的にそう告げた。
アズがネイルしていることには、とっくに気づいていたくせに、店が回らんからって見ないふりをしていたんだ。
それを今さらすまなそうに言うのは、何だか調子いい気がしたから。