流れ星スペシャル


「あ、そっか。飲食店やもんね」


アズはそう言うと、手を開いて自分の指先に目線を落とした。

白から淡いピンクのグラデーションがつややかに光る中に、小さな花が散りばめられているキレイな爪。


流れ星は飲食店だから、不衛生なものやそういう印象を与えるものは基本NGだ。

ネイル、指輪、香水は禁止。

マニキュアが剥がれて料理に混ざる恐れがあるし、指輪は指との間に細菌が発生しやすい。
香水は料理の香りの妨げになるから。

爪は短く切らなければいけないし、ヒゲはNG。長髪は束ねなければならない。

ただ茶髪とピアスはOKだから、流れ星の規則は飲食店としてはゆるい方なんやけど。


「でもこれ、簡単には剥がれへんから大丈夫やよ」


指先を見ながら、アズは言った。


「わかってる。ネイルサロンへ行って、お金払って剥がしてもらわな取れへんねんな?」

「へぇ、男の子やのによう知ってる」


「でも、やっぱ決まりは決まりやから困るねん。嫌がるお客さん多いと思うし、うるるんかてネイルしたいやろーけどガマンしてるから」


なるべく事務的にそう告げた。


アズがネイルしていることには、とっくに気づいていたくせに、店が回らんからって見ないふりをしていたんだ。

それを今さらすまなそうに言うのは、何だか調子いい気がしたから。


< 167 / 494 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop