流れ星スペシャル


「ジョッキでこのレバーを押すと、ビールが出てくるから」


まずは一杯入れながら説明をする。


「こうやって少し傾けて、ゆっくりと注ぐ」

「はい」

「このまま満杯にしてしまう店も多いけど、それじゃあ泡が粗いねん」


そう言いながら7分目あたりで注ぐのをやめて、隣のレバーにジョッキを当てた。


「こっちは泡専用のレバーな。きめ細かでクリーミィな泡が出てくる」


その泡をたっぷりのっけてグラスを満杯にする。


「このひと手間で味が全然ちがってくるから」

「へぇ」

「きめの細かい泡でフタをして、ガスと風味を閉じ込めるっちゅーわけ。そ-すると最後まで美味しく飲めるし」

「なるほど。それはわかります」

とは、飲む側の意見らしい。


新しいジョッキを手渡すと、おっさんは手順通りにビールを注いでいく。


「うるるんとか、めんどくさがって粗い泡のまま持ってってるかもしれへんな。たぶんこんなふうには教わってないと思うし」

「それはいけませんね。忙しくてもこの入れ方は徹底させていきましょう。ビール党のお客さん多いと思うし」

「そやな」


初めてコイツと気が合った。


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