流れ星スペシャル
「早よ持って行け。泡が減る」
注いだビールジョッキを前に、おっさんはなぜか一瞬、オレの顔を見る。
「あ、いや、トシくんのファンだと言っておられました。あのお客さんたち」
「え、オレ?」
「うん。『今日はあの子が焼いてる~』って、めちゃテンションあがってました」
「そっか、ならオレが行くわ」
POSのハンディをポケットに突っ込み、オレはジョッキを持って客席へと向かった。
ビールを運んで少し言葉を交わし、フードの注文を取って焼き場へと戻る。
それから自分がとった注文を焼いていると、横からあいつが話しかけてきた。
「意外でした」
「え?」
「トシくんって、お客さんからファンだとか言われたら、もっと迷惑顔すんのかと思ってたから」
「は? 客商売やぞ」
「ですよね」
ハハ、とやつは笑う。
「別にお客さんもガチでファンだとか言ってるわけやないねん。ちょっとした挨拶みたいなもん」
鉄板のお好み焼きは、まだ片面が生の状態。
それを見守りながら、話を続けた。