流れ星スペシャル


「言っとくけど、オレの指導は厳しいで。優雅なサラリーマンに務まるかな?」

「が、がんばります」

「ええか? 何を言われても絶対服従。それが研修してやる条件」


最後はやっぱ、すごみを効かせて西条さんは言った。


「わかりました。よろしくお願いします」


オレはそう答えた。




それから着替えて、ふたりして厨房に立つ。

まずは仕込み。
大きな寸胴鍋に出汁をとりながら、具材の下ごしらえに取りかかる。


「昨夜のうちにやっとくべきことと、当日にすべきこと。それをしっかり頭に叩き込んでおけ。ごっちゃになってる店が多いねん」


そう言いながら西条さんは、調理台の下の冷蔵庫を開けた。


「ん? これ、誰がやったん?」


しゃがみ込んで中を覗きながら、オレを見あげる。


「えっと、おそらくバイトの子が」

「ふ~ん」


そう言うと西条さんは、冷蔵庫の扉を閉めて立ちあがった。

どうやら昨夜のうちに済ませることは完璧にできていたようだ。


続いて西条さんは、大きなまな板にゴロンとキャベツを1玉乗せた。


「千切り」

「は、はい」


包丁を持つ手がぎこちない。


「お、お前まさか、包丁持つの初めてじゃないやろな」

「は、初めてではないです」


確か小学校の調理実習で、野菜サラダを作った…。



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