流れ星スペシャル


タクシーで帰るという西条さんと別れて、オレは一旦店へと戻った。

ってゆーか、ミナミから自宅のマンションへ帰る途中に店がある。

流れ星の前を通ると、まだ店内に灯りが点っていた。

客席ではなく厨房の奥。


「まだ片づけてんのかな?」


もう3時を回っている。

今夜はラストオーダーを焼いてから、桂木さんに全部任せて帰ったから、気になってたんだ。

ドアを開け店内に入ると、厨房からシャカシャカと、デッキブラシの音が響いてくる。

そっと覗くと、誰もいない厨房で一心にブラシを動かす姿があった。

真剣な横顔には、夏でもないのに汗が幾筋も伝っていく。


「お疲れ様です」


オレの声に驚いてあげたその顔が、途端にフワッと笑顔になった。



「トシくん、今日は悪かったな」

「いえ、オレも勉強になりました」


財布から札を抜き、桂木さんに返す。


「西条さんにごちそうになりました。払うって言ったんですけど、先輩に恥をかかすなって、おごらせてもらえなくて」

「そっか……」


桂木さんに頼まれて誘ったってことは、もちろん口止めされていたから。


< 230 / 494 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop