流れ星スペシャル
タクシーで帰るという西条さんと別れて、オレは一旦店へと戻った。
ってゆーか、ミナミから自宅のマンションへ帰る途中に店がある。
流れ星の前を通ると、まだ店内に灯りが点っていた。
客席ではなく厨房の奥。
「まだ片づけてんのかな?」
もう3時を回っている。
今夜はラストオーダーを焼いてから、桂木さんに全部任せて帰ったから、気になってたんだ。
ドアを開け店内に入ると、厨房からシャカシャカと、デッキブラシの音が響いてくる。
そっと覗くと、誰もいない厨房で一心にブラシを動かす姿があった。
真剣な横顔には、夏でもないのに汗が幾筋も伝っていく。
「お疲れ様です」
オレの声に驚いてあげたその顔が、途端にフワッと笑顔になった。
「トシくん、今日は悪かったな」
「いえ、オレも勉強になりました」
財布から札を抜き、桂木さんに返す。
「西条さんにごちそうになりました。払うって言ったんですけど、先輩に恥をかかすなって、おごらせてもらえなくて」
「そっか……」
桂木さんに頼まれて誘ったってことは、もちろん口止めされていたから。