流れ星スペシャル


「手荒な真似をしてすみません」


それから桂木さんは西条さんに向き直って、深々と頭を下げた。


「でもオレ、ほんまに何もないんです。ここで終わっても成功しても、戻るところはどこにもありません。そのつもりでここへ来ました。この店しか……オレにはないんです」


桂木さんはそう言葉を続けた。


「そんな何もないオレと、まったくの素人のオレと……、一緒に店をやろうと覚悟を決めてくれたのが今のスタッフです。

だからオレ……あの子らを守るためなら、どんなことでもしますから」


西条さんはただ黙って聞いている。


「なんにもないオレが、唯一守ろうと思えるんが、この店とあの子らなんです」



グスッと横で、ユースケが鼻をすすった。


「お、おい、泣くなや」

「だ、だって……」


涙ぐむユースケを見ていると、こっちまで、えっと……。

い、いや別に、何でもない。


だけどあんなに穏やかな桂木さんに、あんな激しく真っ直ぐな一面があるなんて。

それはオレの胸の真ん中に、結構ズシンと響いていた。


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