流れ星スペシャル


「いらっしゃいませ。じゃあ、店長呼んできますね」


涼やかな笑顔を残して厨房へ向かおうとするトシくんを、中村課長があわてて制止した。


「いい、いい。ジャマしたらあかんし」

「大丈夫ですよ、ボクが代わりますから」

「いや、ええねん。だって、なんか……見るのつらいもん」


なんて、中村課長は下を向いた。


「こんなとこに飛ばされたのに、あんなに声を張りあげてがんばってるなんて……哀れ過ぎるやろ」


桂木さんの転属を、課長はまだ納得していなかったみたい。



「失礼します。特製デラックス焼きそば、お持ちしました!」


そのとき突然、背後から大きな声がした。

厨房に誰もいなかったので、できあがった焼きばを桂木さんが自分で運んで来たようだ。


「わ、課長! 上杉社長も」

「お……お、がんばっとるやん」


するとそのとき、今まで静かだった上杉社長がいきなりガバッと立ちあがり、通路にひれ伏して土下座をした。


「申し訳ない桂木くん! わたしのせいで、ここに配属になったそうやな」

「えっ?」

「うちの会社が不渡りを出したばっかりに、担当だったキミが責任を負わされて、お好み焼き屋に回されたって聞いたんや」

「えっ、い、いや、違いますよ」


桂木さんは急いで鉄板に焼きそばを置き、チリトリとコテを手にしたまま、上杉社長の向かいに正座した。


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