流れ星スペシャル


「桂木はね、左遷を左遷とは思ってないみたいですよ」


コテで鉄板のお好み焼きを切りながら、中村課長はタメ息をついた。


「こんな人事、左遷どころかクビみたいなもんでしょ? だけど会社も体裁悪いし問題になっても困るから、うまいこと言いよるんですわ。『キミの他方面での活躍を期待している』みたいなのを。

桂木はマヌケやから、それを本気にしとるんです。不憫でしょ?」



「へぇ~、そうなんや……」


トシくんがそうつぶやいたので、桂木さんはギクリと振り向いた。


「い、いや、ちがうで、トシ。左遷じゃないし、オレは本気でこの店を、」


なぜかやっぱりトシくんに向けて、全力で釈明する桂木さん。


「プッハ、もうわかってますって」


その必死な形相を見て、トシくんが吹き出した。


「毎日一緒にいるんやから、店長の本気度はちゃんと伝わってますって」


そう笑ったトシくんの言葉を受けて、中村課長は上杉社長に話を向ける。


「そうそう。本気なんですよ、桂木は。オレが営業一課に必ず戻したるって言うたら、要らんって抜かしよりました。この店に命懸けで取り組むらしいです」

「ほぉ」


上杉社長は驚いたように、桂木さんを見あげた。


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