流れ星スペシャル


中村課長は話を続ける。


「だったらオレはどーなるって話です。まだ学生気分の抜けへんこいつを、一から育てたったんはオレですよ。それをこんな不当人事でスコーンと持って行かれて、その上本人は、もう戻る気はない、とか言うんです。そんな話ありますか?」


上杉社長に話しているけれど、課長のそれはたぶん桂木さんに対する言葉で……、突っ立ったままの桂木さんの顔が切なげに歪んだ。


「課長……」


「寂しいやん、オレ」


中村課長はそうつぶやくと、ギュッと唇を嚙み締めた。



「あ……オレ、戻りますね」


桂木さんの手からコテとチリトリを引き受けて、トシくんが厨房へと戻っていく。


「わたしも戻らなくちゃ」


課長と上杉社長に一礼して、席を離れようとすると、中村課長が大声をあげた。


「こら、桂木。お前も戻れ。さっさと仕事しろっ。怠けるなっ」


いつもオフィスで聞いていたのと同じ言い方。


「課長、あの……、長い間、本当にありがとうございました」


そんな中村課長に、桂木さんは腰を折り、深々と頭を下げていた。


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