流れ星スペシャル


厨房へ戻ると、トシくんがもう鉄板に向かっている。

代わりに任されていたユースケくんが洗い場へと移る。


「あの課長さん、お好み焼きと焼きそばの一番高いやつ頼んでくれたんやな」


トシくんはわたし相手に小声でささやいた。


「うん。あー言いながら、桂木さんのことを励ましに来てくれたんやと思う」

「そうやな」


そこへ桂木さんが戻って来た。


「は~。トシがいつキレるかと思って、ハラハラしたわ」


照れくさいのか、そんなことを言っている。


「え、オレですか?」

「左遷されてここ、とか、お前らこの店ナメてんのかーって、ブチ切れるかと思った」

「は? オレ、そんなことでキレませんし」

「ウソつけ」


と桂木さんが笑う。

その横顔を見あげて、トシくんがつぶやいた。


「サラリーマンも、案外熱いねんなぁ」

「うん。あの人は特にな……。ずいぶん引っぱってもらった」

「そういえばあの課長さん、ちょっと西条さんに似てません?」


そう言ってトシくんはクスリと笑う。


「え、西条さん?」


意外な名前に、桂木さんは目をパチクリさせた。

本部のパワハラ研修の西条さん。


「ほんまやわ。だから桂木さんって、西条さんのこと平気やったんですね」


思わずそう言ったら、桂木さんはブンブンと首を横に振った。


「平気ちゃうやろ、全然」


慌てた言い方がおかしくて、それからみんなでアハハと笑った。


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