流れ星スペシャル


それから、桂木さんに頼まれた件。

早速翌日の営業前に、トシくんにも早めに出てきてもらって、経理書類の見方を教えることにした。


「だいたいこんな感じかなぁ」


ふたりだと事務室の机では狭いので、一番奥の客席に書類のファイルをドサッと置いた。


「これが売上推移、経費の内訳、原価計算、利益率……」


自分が綴じているデータの中からひとつずつ、表やグラフを説明していく。

それがどういう資料で、何を知りたいときに見ればいいか、とか。




「スゴ~い、トシくん。自分で勉強したん?」


説明していくうちに、トシくんの飲み込みがあんまり早いから驚いた。

質問される内容も、いちいち的を得ているし。


「いつもこれ見てたから」


トシくんはそう言いながらファイルのデータを数枚めくって、わたしに見せた。

表の欄外に赤い書き込みがある。


「あ、これ社長の字?」

「うん、富樫さんに」


どのファイルも数枚めくると、丁寧な解説が書き込まれてあった。

初心者向けに、とてもわかりやすく。


「そっか、社長は富樫さんを育てるつもりだったから」

「うん……。あの人、ちっとも見てなかったけど」


トシくんがポソッと言った。


「そっか……」


人ってむずかしいな、と思う。


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