流れ星スペシャル
そうこうするうちに、自宅マンションの下に着いた。
「このチャリ乗ってく?」
まだしばらく歩かねばならないトシくんに、押してきた自転車を勧めてみる。
「酔っ払い運転は禁止なんやろ?」
「あ、そうやった!」
クスクス笑われながら、わたしは急いで借りていたコートを脱いだ。
「ええで。寒いから部屋まで着て行き」
「いい、いい。酔いが醒めたら冷えるから、トシくんが風邪をひく」
グイと、押し付けるように渡したトレンチコートを、イケメンバージョンのトシくんが身にまとう。
「ちょっとデカイねんな、これ」
それからそうつぶやいた。
プッフ。やっぱトシくんにも大きかったんか、このコート。
「遅なってゴメンな、アズ」
「こっちこそ遠回りさせてゴメン。送ってくれてありがとう」
目が合って笑ったトシくんの笑顔は、やっぱ子供みたいで……。
「あ、あのね、トシくん、」
『イヤやったら、ホスト辞めたら?』と言おうとして言えなかった。
余計なおせっかいだと思う。
きっと自分でも考えたはず……。
何か義理があるとか言ってたし、つらそうに見えたのは、わたしの思い込みかもしれない。
「お、おやすみ」
「おー、おやすみ」
そう片手をあげると背中を向けて、トシくんは帰って行った。