流れ星スペシャル


「鍵忘れてな、中に入られへんで困っててん」


のんきな口調でそう言うと、桂木さんはふんわりと笑った。


「そ、そうなんですね? あのっ、わたし今日早出のつもりでしたけど、16時からの出勤でお願いします」

「うん。了解」


とりあえずバッグから鍵を取り出し、カチャカチャとやる。

その背後で桂木さんが、小さな小さな小さな声でささやくのが聞こえた。


「トシ、沢井さんに殴られたんか……?」


はぁっ? な、なんでそーなるっ?


トシくんの腫れた頬の原因は、わたしのせいだと分析された様子。


「えー、まー」


なんてトシくんはあっさり肯定している。


「ち、ちがいます!」


ガバッと振り向いて食って掛かると、その勢いにたじろいで、桂木さんは一歩下がった。

胸の前で両手のひらを見せて「まーまー」なんてなだめてくる。


「ちっ、ちがうっ。ちがうんですっ」


桂木さんに訴えるわたしの横をすり抜けて、トシくんはさっさと店内へ入っていった。


「まーまー。オレが悪かったから許して」


なんて言い残して。


「ちょっ、ちゃんと否定してよ」


怒鳴りつけたトシくんの背中は、クックと小刻みに震えている。

こ、こいつ……。


「ちがうんですよ、桂木さん?」


「あっは……。まー、いろいろあるよな」


再度振り向いて弁明したけれど、桂木さんはちょっと困ったように笑ってくれただけだった。



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