流れ星スペシャル


「誰ッスか?」


ユースケが小声で聞いてきた。


「たぶん店長の奥さん」


オレは口の形だけで、そう答える。


おそらくこの人だ。

いつか桂木さんがうるるんに話していた、別居中の奥さんって……。


「ええーっ、店長の奥さん、ほんまにこんな美人やったんや」


ユースケは素っ頓狂な声を出し、そのあとハッと顔をこわばらせた。

たぶんこいつも、この前聞いてしまった会話を思い出したんだと思う。


「慎ちゃんがいつもお世話になってま~す」


リカコさんは、すかさず立ちあがり、オレたちに向かってちょこんとお辞儀をした。


「い、いえ、こちらこそ……」


そこへおしぼりを運んできた松田くんが、全力で挨拶をする。


「どうぞ! 店長にはいつもお世話になってますっ」


それから松田くんは厨房を仰いで、桂木さんにこう言った。


「店長、幸せですね~。こんなに美しい奥さんがいるなんて、うらやましいッス」

「や~だ。お上手ね」


恥ずかしそうに小首を傾げ、上品かつ可憐な笑顔を振り撒くリカコさん。



「帰れや」


その和やかムードをぶち壊して、桂木さんは言った。


「今日は忙しいから休憩とられへんし、明日の営業前に出直してきて」

「そんなぁ」


グロスで濡れる唇が尖る。


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