流れ星スペシャル
「桂木さんたちの離婚はないってこと?」
「うん」
「あの人がフリーになったらなーって、ちょっとぐらい期待してたんちゃう? アズは悲しくないん?」
そんな愚問に、やっと手を止めて、アズはゆっくりと首を横に振った。
「桂木さんがつらいほうが、悲しい」
「え?」
「好きな人の幸せを願う人間でいたいもん」
そう言って、アズは当たり前のようにドリンク作りを再開する。
これまでだって、何度も何度もそう自分に言い聞かせて、あきらめてきた恋なんだと思う。
今までいくら冷やかしたって、桂木さんへの想いを口にしたことはなかったのに。
初めてアズの口から、桂木さんに対して『好きな人』というワードが出た。
それは、やっぱ……、
えっと……、
なぜかオレの胸に、グサリと刺さっていた。
焼き場へ戻ると、桂木さんはオレを見て「ほらな」と言った。
何が?
目線をたどると、カウンター席で料理を待ちながら、リカコさんが紙を広げている。
卓上で何やら記入しているその薄っぺらな用紙は……。
「え、」
もしかして離婚届?
「な、デリカシーゼロやろ?」
自嘲するように、桂木さんが小さく息を漏らした。