流れ星スペシャル


「桂木さんたちの離婚はないってこと?」

「うん」

「あの人がフリーになったらなーって、ちょっとぐらい期待してたんちゃう? アズは悲しくないん?」


そんな愚問に、やっと手を止めて、アズはゆっくりと首を横に振った。


「桂木さんがつらいほうが、悲しい」

「え?」

「好きな人の幸せを願う人間でいたいもん」


そう言って、アズは当たり前のようにドリンク作りを再開する。

これまでだって、何度も何度もそう自分に言い聞かせて、あきらめてきた恋なんだと思う。


今までいくら冷やかしたって、桂木さんへの想いを口にしたことはなかったのに。

初めてアズの口から、桂木さんに対して『好きな人』というワードが出た。

それは、やっぱ……、

えっと……、

なぜかオレの胸に、グサリと刺さっていた。




焼き場へ戻ると、桂木さんはオレを見て「ほらな」と言った。

何が?

目線をたどると、カウンター席で料理を待ちながら、リカコさんが紙を広げている。

卓上で何やら記入しているその薄っぺらな用紙は……。


「え、」


もしかして離婚届?


「な、デリカシーゼロやろ?」


自嘲するように、桂木さんが小さく息を漏らした。


< 385 / 494 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop