流れ星スペシャル


「なんで自分の分くらい、家で書いてけぇへんねん?」


調理を続けながら、桂木さんはリカコさんに聞く。

鉄板に目線を落として、片手間に話しているように見えるけれど、苛立ちを抑えてるのが、オレにだってわかる。


「だって、ひとりで書いてたら悲しなってきて……。だから慎ちゃんと一緒に書こうと思って持ってきてん」


えー……。

じゃあ、これにサインするために、ふたりは待ち合わせてたってことか?


「なんか泣けてくるんやもん」


艶やかな唇を歪めて、リカコさんがつぶやいた。


「なんで? うれし泣き?」


そんなリカコさんに、桂木さんはいつになくひねくれた言い方をする。


「ひどい……。慎ちゃんは離婚すること、わたしが喜んでるとでも思ってるの?」

「思ってるよ」

「ひどいよ。わたしだって、こんな結果は悲しいよ? 慎ちゃんのこと今でも好きやし」


えっ?

と驚くオレには構わず、桂木さんは言った。


「はいはい。あいつの次にな」


あいつ、というのは、たぶんリカコさんの恋人……ってゆーか浮気相手。


「やめてよ、そんな言い方……」


意地悪な言葉に、きれいな顔が心底悲しそうに歪む。


ん~、やっぱよくわからん。


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